顧客にとことん向き合う(日経産業寄稿コラム)

(2020/5/22掲載)

コロナ禍で多くのスタートアップは黒字化が急務になっている。言うまでもなく今後、投資家が激減するからだ。次の増資が成立せず「サドンデス」になる状態からすぐに抜け出す必要があるので、既存株主は「人員削減も選択肢に早急に黒字化を」と主張する。

 

しかし、実行する側からすると簡単なはずがない。私の起業時の話だが、ベンチャーキャピタル(VC)をやめて実行側に移った創業2年目に、ドットコムバブルが崩壊し大不況がやってきた。できたばかりのネット産業が壊滅しそうな衝撃波だった。

 

早い話が当社も固定費を3分の1にしなければならなくなった。前途洋々のビジョンを語って集めた社員を突然苦境に陥れることになった。

 

ゼロから作った決済サービスを止めたくない。ベンチャーの我々を選んでくれた加盟店の期待を裏切れない。しかし金がない。社長自らの給料はゼロの月もあった。長女のミルク代のために帰宅後の缶ビールをあきらめた。次第に社員や幹部が辞めていった。

 

「株主リターン」「上場」という言葉は棚上げした。このサービスをどうしても諦めたくない社員とともに、自分も営業マンとして単身で会社訪問し、要望を聞き小さな改善を繰り返した。マーケ担当もいなくなったので自分でやった。それまでやれていなかったインバウンドマーケティング(顧客がウェブ検索などの結果向こうからやってくること)へ抜本的転換をした。顧客の獲得効率は3倍になった。

 

やむを得ない事情で競合他社に乗り換える顧客に、ある社員が「円滑な乗り換えになるよう当社のサービス利用終了後も2カ月無償でサポートします」と言った。意をただすと「長年使っていただいたお客様です。当然です」と胸を張った。短期的には自社の利益にならずとも顧客のために行動するという創業時からの文化が不況の時に研ぎ澄まされていくのを感じた。他の決済会社への乗り換えを社長が命じているのに現場社員が頑として阻止してくれた顧客もあった。

 

10名足らずのメンバーで2年間耐える中、顧客の解約率が創業以来の低い数字になった。トンネルの出口が見えた。不況のどん底から売り上げが4倍になっていた。黒字化した瞬間は今でも忘れない。赤字の決算しか見たことがなかった経理担当が「間違いではないですか」と何度も財務データを見せに来た。数千円だったが、黒字だった。

 

世の中では景気回復のきざしが観測され始めていた。その後、資本再編し現在に至るが、今もご利用いただいている当時のお客様には感謝の他ない。経営者にとって一旦縮小、特に人材部分は身を切られる思いだが、それでも成長する方法はある。我々にとってそれは顧客にとことん向き合うことだった。

 

GMOペイメントゲートウェイ副社長

兼 GMOベンチャーパートナーズファウンディングパートナー村松竜

 

新卒でジャフコに入社。担当していたGMOインターネットの上場後に決済のスタートアップを起業。

2005年にGMOベンチャーバートナーズを設立。12年よりシンガポールを拠点に活動

 

- | 14:06 | comments(0) | -

        

Sansan上場承認 ブログビジネスファンド最後の投資先が、ついに上場

名刺を再定義する:利益に直結するインターネットサービス

 

この最初の投資から、まさにちょうど10年です。
その後6年にわたり、追加投資しつつ今日に至りました。当時の時価総額は今日、100倍以上になっています。


2009年から、桁違いによい経営チームでした。
今の経営チームのほぼ全員が、設立1年の10年前からそろっていた事は、驚異的です。
当時はリーマンショックの直後で、

 

もう上場なんて誰もしない
VCの時代は終わり、VCは解散が相次ぐ
もう誰も起業しない

 

本当にそういう時代だったんですよ。
その時に平然と、敢然と起業したのが寺田さん達で、しかも最初からフルセットそろっている経営チーム。
このあたりからも、いかに異質で異例な、将来の大成功を予感させる船出だったか、がわかるというものです。

 

とはいえ、名刺管理?という時代でもありました。
競合ソリューションも正直ありました。

自社含めてどんどん導入し、初期は営業も相当お手伝いさせて頂き、というのはありましたが、
予想を大幅に上回る成長を遂げられました。

 

結局、未来を決めるのは、圧倒的な信念・変わらぬ鉄の意思、で冬でも嵐でもやりきる、事だと思います。
「中華の統一」ですね。
 

日経産業コラム「1000億円突破には鉄の意志」
「1000億円を超える会社には1つの共通点、それは、リーダーに人間的な魅力的があるだけでなく、とてつもなく大きな目標を達成する鉄の意志を10年単位で持ち続ける超人的な意思力がある、という事です。」

 

関係者の皆様、おめでとうございます。

 

 

- | 15:40 | comments(0) | trackbacks(0)

        

節目となった会社、メルカリ

メルカリはある意味では、日本のネット産業における3番目の転換剤、節目となる会社になったのかもしれない。
ヤフージャパン、楽天、そしてメルカリである。
1社目のYJは言うまでもなく、日本に「インターネットユーザーがいない時代」を「いる時代」に変えた会社であり、
楽天は日本に「ネットショッピングが存在しない時代」を「存在する時代」に変えた会社であるが、
メルカリは、売る人と買う人に二分されていた時代を、万人が売りも買いもするする時代、に変えてしまった会社として、である。

もちろん、これまでもオークションサイトもあれば、簡単なショッピングサイトツールはあった。
しかしやはり一定のプロ意識と努力が必要な行為である事には変わりはなく、コンビニにふらっと立ち寄るとか、ベッドに寝そべったままスマホをいじるような簡単さかと言えばそうではなかっただろう。
日常に溶け込むレベルで簡単に売ったり買ったりするインフラ。
メルカリが変えたのはこの点であろうと思う。

他にも様々なイノベーションを実現した会社が生まれネット業界が発展してきたが、
今までなかったユーザ行動を国民的な規模と範囲で創出した、のはやはり3社目なのかもしれない。

そのような節目の会社は代々1兆円のバーを越えてきた。
世界に行けるかどうかは簡単な話ではないが、日本の悲願として是非声援をおくりたい。


ではそのメルカリ、の駆動力とは何か。

根底にあるものを一つ挙げるならば、創業者の圧倒的な目線の高さと、その継続、だと思う。

その目線の高さはどのくらい高いかと言うと、妥協を許さず果てしなく高い。想像のはるか上を行っている。
多数の起業家と接してきた感覚からしても、普通では考えられない高さなのである。

それがコアな磁石となり、連続起業家や大幹部が集まってくる。
この会社の大きな特徴であり強みは、連続起業家が創業メンバーは無論幹部レベルにまで他にはないレベルで無数に集まっている点でありそのため、経営の執行力が極めて高く、早い。

コンセプト自体は、実は世界で最初でも日本で最初でもなかった。機能面では類似している他社、他プロダクトが存在はしていたが、テーマの設定、見ている距離と時間、高さが違った。
最初からキャズムを飛ばした国民アプリを志向していた。
スマホ普及の波に乗ったとか、最規模CMの成功とか、メルカリの成功要因は多々論じられているが、同じ時期に同様のチャンスがあった会社は他にもある。
ここではこの一点「圧倒的な目線の高さと、その継続」だけ強調しておきたい。


GMO VenturePartnersとしてはローンチ半年後、創業時のラウンドに続く14億円の最初の本格ラウンドとなった2013年の2月のラウンドで出資させて頂いた。
当時、無料サービスで売上がゼロの状態でいつ、いくらの売上利益が創出されるかなど全く想像の世界で投資判断する必要があったのだが、時価総額は当時としても破格だった。
今の相場感覚では数百億円くらいだろうか。売上ゼロでだ。
今思い起こしても大変なラウンドだったと感じる。

 

https://about.mercari.com/press/news/article/100million_downloads/
こちらの発表のとおり今では1億DL突破しているが、

 

投資時のあたりでは2013年12月に100万ダウンロード
http://thebridge.jp/2015/02/mercari-surpass-10m-downloads-in-2years

増資後1年で1000万DLに駆け上がって行った

 

投資時から4年で100万が1億DLになった訳で、DL数だけではなく事業規模もほぼ比例して100倍レベルになった。


この「ご縁」は、結果的に今思うと僥倖としか言いようがないが、これからも諸方面にてお手伝いして参ります。

 

※GMO VenturePartners投資先13社目の上場となります

 

- | 15:51 | comments(0) | trackbacks(0)

        

寄稿記事:社内起業 私は旗振るのみ

日経産業新聞 Smart Times寄稿

https://r.nikkei.com/article/DGXKZO28947990T00C18A4XY0000…

 

GMOペイメントゲートウェイは上場して13年になりました。

 

上場時の唯一の事業だった決済代行事業を基盤にしつつ、今では広告、送金、レンディング、後払い、プラットフォーム事業、スマホ決済事業、グローバル決済等、多様なプロダクトを立ち上げてきました。

中には、主力事業であるH1領域から、その延長上の領域である「H2」領域、そして飛び地である「H3」領域への進出もあり、困難を極めたものもあります。

この寄稿は、5年前に日本ではいち早く発案したスマホ決済の、立ち上げ時の風景。まさにH3です。

結果としてこれが、スマホ決済時代の先駆けとなりました。

 


 

 

特にH3は経営リソースも経営マインドすらゼロから調達する必要があり難しいものがありますが、メンバー一丸となり取り組めてきました。
スタートアップの最初の事業立上げも壮絶に大変ですが、上場後の利益成長とバランスさせながらのこうした新規事業創出も、また別の難しさがありますが、面白さ・熱狂もあります。
 

この「事業会社における実体験」をGMO VenturePartnersの投資先の応援にも活かして行きます。

 

 

- | 16:37 | comments(0) | trackbacks(0)

        

その起業家の驚くべきフットワークと、投資を決めた一枚の図

「あ、であればシンガポールにいきますね」
シンガポールに住んで6年、毎月のように日本に帰っているのだが、4年前のそのタイミングは、ちょうどその先1ヶ月は日本出張のない時期だった。
そこでその起業家は、渋谷まで出て行きます、くらいのノリで言った。
「土日で往復出来ますから」。

 

この6年で、投資のピッチのために週末に飛んできたのは彼1人である。

 

そしてその土曜日17時。
彼が私に説明した「投資家向け資料」はたった1枚だった。その1枚を、彼は2時間もかけて説明した。正確にはもう少しあったが、彼の会社の将来性、プロダクトのすさまじさを物語るのはそのたった1枚だった。

だから私もその1枚だけを見てとことん質問した。「何故こうなのか。この曲線は何故こうではなく、こう進んでいくのか。」「こうすればもっとこうなるのではないか。」
そこには、プロダクト、事業の特徴と課題、上場までの”スケール”の可能性の示唆、その全てが荒削りでも全て埋め込まれていた。

 

それが「ラクスル」であり、松本さんだった。

 

その1枚とは「リテンション・レート」つまり継続率のチャート。今後の成長を占う1枚である。

 

4年間で四半期の売上は40倍になり、本日、ラクスルは上場承認を受けることになった。
GMO VenturePartnersとして12社目の上場となる。

 

彼が使ったあの1枚で、私は投資を決めた。その1枚でとことん議論した時、彼がいかに自分の事業の重要性とプロダクトの可能性を「とことん考え」「とことん行動している」かがよく分かったからだった。

 

今日上場承認を受けた屈強なラクスルチームは松本さんがゼロから創っていかなければならなかったのだが、松本さんはそれをやりきった。集まってきたメンバーの凄さは言葉にするのが難しい。なぜそこまで人が集まるのか、と時々不思議になったがやはり原点はあの土曜日の夜見た、松本さんの思考の執念なのではないか。そこに多くの優秀なメンバーも惹かれたのだと思う。鮮明なビジョン、それも大切で、ラスクルにも明確なビジョンがもちろんある。しかしそれだけではいけない。その裏にいかなる執念があるか。それがスタートアップが、一部の業界関係者に知られる状態(ファイナンスステージで言えばシリーズA)で終わるか、上場してさらにそこから飛躍しつつ多くの会社の仕事のあり方、一般消費者の生活のある部分を変えるに至るか、を分ける決定的な分岐点、なのだと思う。


 

- | 00:48 | comments(0) | trackbacks(0)

        
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